遊歩者の機能的等価物としてのWebクローラ、探索のアルゴリズムとアルゴリズムの探索 | Accel Brain

遊歩者の機能的等価物としてのWebクローラ、探索のアルゴリズムとアルゴリズムの探索

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派生問題:遊歩者の蒐集は如何にして可能になるのか

遊歩者が同時に蒐集家であるのは、ベンヤミン自身を観察することで容易に理解できる。批評、注釈、引用翻訳を主眼とする前期ベンヤミンの言語メディア理論は、有名なアフォリズム集である『一方通行路』を経て、後期ベンヤミンの知覚メディア理論へと接続されていく。これは別段不自然なことではない。と言うのも、彼の文学活動は文学の枠の中で実践されていた訳ではなかったからだ。文学が効果を発揮するのは、もはや学会や論文の中ではない。彼はむしろ社会的な生活の中で文学を実践していた。社会影響を与えられるのは、壮大な普遍性を誇示する小難しい書物ではなく、広告、パンフレット、雑誌、ポスターなどに記述されている機敏な言語なのである。

歩く批評であったベンヤミンは、街路を辿りながら、街の行く先で起こる数々の出来事から常にショックを体験し続けた。広告、パンフレット、雑誌、ポスターのみならず、看板や商品や建築や風景からも、彼はショックを受け続けた。ベンヤミンがこうしたショック体験ショック経験に変換できたのは、その出来事の記述を蒐集していたためである。彼が想定する真の著作は、自身の内部に無数の警報器を備えている。記述するというのは、体験したショックに対して警報器を鳴らすことに他ならない。著作は、驚きながら書き続ける。

ベンヤミンが<思考すること>と<記述すること>を区別しなかったのは、このためである。記述するというのは、単に思考した結果を出力することなのではない。記述には、思考の鍛錬が伴う。つまり視覚的に無意識的なショック体験触覚的に享受しながら、著作は書き続けるのである。もとより『パサージュ論』は、ベンヤミンのこの歩く批評としての姿勢によって記述された代物であった。

複製技術時代以降の近代社会では、言語が活字メディアから解き放たれることになる。それ故ベンヤミンは、もはや学術論文雑誌や専門誌をはじめとした諸々の活字メディアを主導的なメディアとしては認めない。彼はあくまで知覚メディアの学を徹底した。ここでいう知覚という用語は、繰り返すように、「美学(aesthetics)」の語源となるギリシア語の「アイステーシス(aisthesis)」に由来する。つまり彼の学は、「メディア美学(Media Aesthetics: Medienasthetik)」なのである。

活字メディアグーテンベルグ銀河系終焉の時を迎えて尚、メディア美学は新しい学問であり続けた。ベンヤミンのメディア美学における参照問題となったのは映画である。だがその出発点となったのは形象に関わる複製技術に他ならない。彼はそこから広告、パンフレット、雑誌、ポスターなど、様々な知覚メディアによって記述された機敏な言語観察し続けたのだ。彼が生きた時代には、既に近代社会の大都市がポスターの世界に凝縮されたデータの洪水を放っていた。看板や広告によって展示された個々の文字列は、視覚的に無意識的なショック効果を呈示してきた。

この段階で既に、本という活字メディアが徐々に文化の中心から後退していった。長らく言語の居場所を独占していた活字メディアは、知覚メディアに席を譲ったのである。そして機敏な言語は今日、既に数多のハイパーテクストで記述されることにより、ワールド・ワイド・ウェブ上でビッグデータ化している。自然言語は遂に人間のためだけの言語ではなくなった。これらのビッグデータは、もはや人文主義者たちはおろか、データサイエンティストをはじめとした人間のためだけの読み物ですらなく、人工知能観察し得るメトリクス化可能自然言語処理の対象として形式化されている。ビッグデータの時代を迎えて久しい現代社会においては、人工知能と接続可能コンピュータ技術の知覚メディアこそが、メディア美学の参照問題となる。

問題解決策:Webクローラ

WWWのハイパーリンク街路名機能的等価物となり得て、ヴァーチャルリアリティ上のマルチエージェント群衆機能的等価物になり得るという先の発想の展開を前提とすれば、同様の等価機能分析によって、遊歩者機能的等価物としてのエージェントという認識も構成することができる。

この概念はとりわけWebクローラエージェントを想定することでより明快となる。そうした<人格>は、ハイパーリンクで結び付けられたWebページ上を回遊することで、ヴァーチャルリアリティ上の街路を遊歩する。個々のWebページで記述されているハイパーリンク装飾された見出しは、街路名というユーザーインターフェイスとして機能することで、遊歩者としてのエージェントに「言葉の宇宙」を突き付ける。

索引付けのアルゴリズム

こうした言葉蒐集し得るのが、WebクローリングとWebスクレイピングの機能を有したエージェントである。検索エンジン主題とした「情報検索(Information Retrieval)」のアルゴリズム設計が明らかとしているように、文書蒐集する際には、「索引(Index)」を構成する必要がある。通常検索エンジンの索引とは、全ての異なる単語位置関係と、文書についての巨大なデータベースを設計することから始まる。アプリケーションのユースケースにも左右されるものの、必ずしも文書それ自体をデータベースに蓄積しなければならないという訳ではない。もし文書の全てを保存するとなれば、膨大なデータストアが必要になってしまうからだ。

索引は、文書位置関係に関するリファレンス(Reference)として設計されていれば良い。例えばそれはファイルシステムのパスやURLとなる。最終的には、ユーザーによって入力された検索キーワードに含まれる「問い合わせ(Query)」に基づいてランク付けされた文書のリストを返すことが、検索エンジン機能となる。

PageRankアルゴリズム

索引に関連する文書を全て返すだけであれば、検索エンジンとしての機能要求は容易に達成できる。だがその文書集合を如何にソートして出力するのかは、検索エンジン内部で構造化されているアルゴリズムの設計次第である。

Googleの検索エンジンには当初PageRankアルゴリズムが搭載されていた。このアルゴリズムはGoogleの創始者たちによって設計されていた。このアルゴリズムは、全てのWebページに、そのWebページがどの程度重要なのかというスコアを割り当てる。この重要度はそのWebページリンクしている他のWebページの重要度の合計と、それらの他のWebページのそれぞれが有しているハイパーリンクの数から計算される。数学的に再記述するなら、以下のようになる。

$$PR(p) = (1 – \gamma) + \gamma\sum_{\{d \in in(p)\}}^{}\frac{PR(d)}{\mid out(d)\mid}$$

ここで、pはスコアリングされているWebページを表す。in(p)はpを指すページの集合で、out(d)はdのリンク集合意味する。定数γは、1未満の値で、ユーザーが別のWebページ要求する確率を表す減衰係数となる。

このように、PageRankアルゴリズム確率モデルは、あるWebページ上でハイパーリンククリックしたユーザーがある特定のWebページ回遊して到着する確率モデルとして設計されていた。他の著名なWebページからリンクされていればいるほど、そのWebページに到達する確率は高まる。尤も、単純にあるWebページの価値をそのページとリンクしている別のWebページからの価値によって計算しようとすれば、ハイパーリンクのハイパーリンクのハイパーリンクと言った具合に、無限後退に陥る。そこでPageRankアルゴリズムでは、初期化戦略の一環として、全てのWebページのスコアの初期値を予め決定しておく方法が採用されていた。

全体のWebクローラから局所的なWebクローラへ

一般的に検索エンジンは、検索結果のページにおけるエンドユーザーのクリックログを解析することで、文書集合を如何にソートするべきなのかを学習することができる。インターネット広告の指標を読めば直ぐにわかるように、このクリックの前提にあるのは、検索結果のインプレッション(Impression)である。多くの場合、クリック率(Click Through Rate: CTR)と述べた場合の母数に該当するのは、この検索結果がどの程度の頻度でエンドユーザのディスプレイに表示されたのかを表すインプレッションなのである。しかしそのインプレッションそのものの母数は、検索エンジン背景にあるWebクローラ探索アルゴリズムに左右される。それ故に<検索エンジンにおける最適化>と<Webクローラ探索アルゴリズムにおける最適化>は厳密に区別されなければならない。前者はしばしば、後者のアルゴリズムをブラックボックス化した上で実施される。

検索エンジンアルゴリズムが如何に洗練されていたとしても、その検索結果は、検索エンジンによって予めインデックスされた(indexed)情報以上の質にはなり得ない。インデックスされていないWebページ検索され得ないためである。それ故に検索エンジンの研究開発者たちは、1990年代後半から2000年代前半にかけて、索引の担保範囲(coverage)を追究するようになった。その範囲の追究は、言わば全体性を志向していた。実際、PageRankに次ぐスコアリングとランキングに基づいたWebクローラアルゴリズムは、当初はWWW全体のインデックス化を志向した上で設計されていた。だがその志向は、次第に非現実的な想定であるとして、期待外れに終わるようになった。如何にハードウェアと帯域幅のリソースを自由に利用できる環境があっても、検索エンジン進化Web進化に追い付くことはあり得なかったのである。

「話題」と「対象」の形式

任意のエンドユーザによる任意のクエリ(Query)に応答するという検索エンジンの能力は、次第に限定された機能として認識されるようになる。そこで検索エンジンの研究開発者たちは、局所的なWebクローラ認知的に期待するようになる。そうして、遅くても2005年ごろには、局所的なWebクローラアルゴリズムの開発が大きな注目を集めるようになった。そうした局所的なWebクローラは、しばしば「話題準拠型クローラ(Topical crawler)」や「集中型クローラ(focused crawlers)」などと呼ばれながら、全体性を志向してきたWebクローラの設計思想を言わば「脱中心化(decentralizing)」した。新しい局所的なWebクローラは、特定の主題や趣味嗜好に応じて特化した情報探索可能にするアルゴリズムとして期待されるようになったのだ。それはエンドユーザごとに個別化(personalization)された情報検索可能にする。そして、局所的に限定された主題や趣味嗜好に特化している分、そうした検索エンジンは豊富な情報抽出可能にした。

データモデリングの関連から言えば、話題準拠型のWebクローラの設計における主導的差異となるのは、「話題(topics)」と「対象(targets)」の区別である。Webクローラ探索アルゴリズムを評価するためには、「話題」とそれに対応する関連した「対象」が必要になる。理論的には、検索エンジンやユーザー評価から得られた頻出クエリを使用することで、「話題」と「対象」のデータセットを生成できる。だがこの作業は、何らかの自然言語処理技術でも利用しない限りは、管理コストが高まる。WWWの動的に更新される質を前提とすれば、こうしたデータセットを最新の状態に保つのは困難極まりない。当時の研究開発者たちは、例えばかつてのYahoo!が運営していたディレクトリ型の検索エンジンのように、既に作成されているデータセットを幅優先探索型のWebクローラ蒐集することで利用していたという。

こうしたユースケースで実装されたWebクローラは、サブカテゴリに対応した子ノードを持たない「葉(Leaves)」となるWebページを識別するべく設計されている。「話題」を導き出すために利用されるのは、5つ以上の外部リンクを有した「葉」である。そうした「葉」の持つ「話題」の情報は、三つに区別できる。第一に、ディレクトリ階層上の単語が「話題」に対応した「キーワード(Keyword)」として捉えられる。第二に、外部リンクはその「話題」の「対象」を表す。そして第三に、そのディレクトリの編集者によって作成されている「対象」のURL先のハイパーテクストから、「話題」の「説明(description)」が得られる。「話題」の「キーワード」と「説明」の差異は、クエリの短さに対応している。一方で「話題」の「キーワード」は、短いクエリに対応した「話題」のモデルとして、クローラ学習対象となる。他方で「話題」の「説明」は、「話題」のより詳細な表現として、クローリングされたWebページの関連を評価するために参照される。

機能的等価物の探索:レコメンドエンジン

話題準拠型クローラが注目を集めた時期と、協調フィルタリングやアソシエーション・ルール・マイニングを用いたレコメンドエンジンが注目され始めた時期か重なるのは、単なる偶然ではない。個別化という個々のユーザーの趣味嗜好や関心に応じたカスタマイズは、決してビッグテータに対する過剰な期待を実現させる流れから生じた右肩上がりの進歩意味しているのではない。この状況は、クローラアルゴリズム設計が直面していたような、全体性の志向に対する期待外れから派生した認知的な期待として構成されていたのである。

しかしユーザーカスタマイズシステム(user customization systems)にも幾つかの制限があった。こうしたレコメンデーションを成立させるためには、まずユーザーによる貢献が必要になる。特にユーザーの興味関心や趣味嗜好が変化した場合には、それに対応したマスタデータや行動ログを蒐集しなければならない。そのためにはユーザーの協力が必要になる。加えてこうしたカスタマイゼーションの理論は、項目(Item)を提示する順序を決定するアルゴリズムからは独立している。そのため単純にレコメンドエンジンを実装しただけでは、表示する項目に過不足が生じてしまう。

ルールベースとコンテンツベースの差異

ルールベースのレコメンドシステム(rule-based recommendation system)では、予め規定された論理的な規則によってレコメンデーションが実行される。そうした規則は、回遊ログ、クリックログ、あるいは購買ログなどをはじめとしたユーザーの行動ログに関連する。だがそこに個別化アルゴリズムは含まれない。これに対してコンテンツベースレコメンドシステム(contents-based recommendation system)では、項目の説明を分析することで、ユーザーの個々にとって特に興味深いと予測できる項目を識別する。レコメンドシステム構造は、項目の表現に基づいて異なる。だがレコメンデーションに用いられる多くのアルゴリズムは、決定木(Decision Trees)、近傍法(Nearest Neighbor Methods)、ナイーブベイズ(Naïve Bayes)などのように、「分類(classification)」をモデル化している。

「そうしたアルゴリズムは、コンテンツベースレコメンドシステムの重要な要素である。何故なら、これらのアルゴリズムは、それぞれのユーザーの関心をモデル化する関数学習するためである。新しい項目とユーザーのモデルが与えられた場合、この関数は、ユーザーがその項目に関心を持っているか否かを予測する。多くの分類学習アルゴリズムは、ユーザーが目に見えない項目を好む確率の推定値を提供する関数を生成する。この確率は、レコメンドされる項目のリストをソートするために利用することも可能である。あるいは、これらのアルゴリズムは、関心度のような数値を直接的に予測する関数を生成することもできる。」
Pazzani, M. J., & Billsus, D. (2007). Content-based recommendation systems. In The adaptive web (pp. 325-341). Springer, Berlin, Heidelberg., 引用はp.332より。

ユーザーの興味関心や趣味嗜好を学習することで次なる探索に役立てるという点では、レコメンドシステムWebクローラ機能的等価物である。しかしレコメンデーションアルゴリズム探索するのは、Webクローラの場合とは異なり、レコメンドすべき項目(Item)である。ここで項目(Item)として設計されるのは、多くの場合バナー(Banner)かランディングページ(Landing page)である。バナーの画像やランディングページハイパーテクストは、商品についての印象喚起する街路名のように機能する。こうした項目は、遊歩者としての閲覧者がWebページ回遊する上でのユーザーインターフェイスとして機能する。つまりレコメンドシステム学習する回遊クリックのログは、エンドユーザーの印象喚起した歴史(history)と潜在的な相関があると考えられる。

だが無論、こうしたコンテンツベースレコメンドシステムもまた、ユーザーの興味関心や趣味嗜好に関する情報が与えられなければ、品質の高い成果を上げられない。結局のところレコメンドエンジンも、時間の経過と共に変異するユーザーという<人格>の全体像を知り尽くさなければ、完璧なレコメンデーションは成立させられないのだ。たとえ「レコメンデーション」という用語を「広告配信システム」や「プッシュ通知」に言い換えたところで、この限界が解決されることはない。

人格の機能的等価物としてのボット

インターネット広告業界で「アドフラウド(ad fraud)」が問題となったのは、アドテクノロジーで観察されるユーザーが、もはや言葉通りの意味で「人間」とは限らなくなったからだ。今や広告を閲覧してクリックするのは、ボット(bot)でも容易にできることなのである。それ故にボット存在は、広告の成果(Conversion)に対する疑惑を呼び起こすようになった。

アドフラウドが問題視されたのは、ビッグデータという概念を拠り所とした個別化レコメンデーションが注目を集めたという歴史背景があってこそである。個別化主題として取り上げられてきたからこそ、その個別化の対象となる<人格>の真偽が問われ始めたのだ。実際、膨大なユーザーの行動ログを遡及したところで、回遊しているユーザーが本当に「人間」であるという保証は、何処にも無い。ボットは今や、ルールベースでは検知できないほどの複合性を有している。その振る舞いのパターン観察するには、そのパターン関数近似的に汎化できる機械学習異常検知(Anomaly detection)モデルが有用となる。

無論この機械学習アルゴリズムボットの側にも適用され得る。ボットの側もまた自らの振る舞いを抽象化することで、より検知され難い振る舞いを学習できる。そして、こうした騙し合いの闘争が、インターネット広告業界の免疫システムとして機能することで、アドテクノロジーを主題としたコミュニケーションはより一層活性化することになる。と言うのもインターネット広告業界は、アドフラウド問題設定を導入することによって、その解決策となるアルゴリズム設計の研究開発資金を調達することができていたためである。つまりこの観点から見詰めれば、アドフラウド問題を招いたボットこそが、インターネット広告業界の資金調達を促進してきたとも言える。

模倣の模倣

ボットたちは、他の「人間」的なユーザーの振る舞いを模倣することによっても設計されている。ソーシャルメディアのタイムラインを覗いてみれば良い。そこには一個人の独り言から、その<人格>の興味関心や趣味嗜好、あるいはそれに基づいた購買の傾向すら観察することができてしまう。したがってこの<形式としての人格>は、ボットアルゴリズム設計の手掛かりになり得る。だがここで重要なのは、ここで観察される<人格>が形式であるということだ。実際、SNSのログから学習するアルゴリズムにとっては、そのSNSに投稿している<人格>が本当に「人間」であるのか否かは、瑣末な問題となるためである。

故に、「人間」を模倣するボットが実行しているのは、実際には<「人間」を模倣しているボット>の模倣なのかもしれない。模倣するように設計されたボットにとって重要となるのは、ただその<形式としての人格>の行動ログがユーザーIDに紐付いた状態で抽出することができるというデータモデリング構成なのである。そのユーザーIDの所有者が「人間」でなければならないという道理は無い。ボットたちの振る舞いは、この<模倣模倣>が織り成す回帰的なコミュニケーションのネットワークによって構成される。そしてそのユーザーIDを所持する<人格>が、このコミュニケーション固有値となる。

無数のボットたちが、一人の、<形式としての人格>として、個別化されたランディングページ商品一覧ページをそれぞれの趣味嗜好や興味関心のアルゴリズムに従って回遊する。この回遊こそが、ボットたちの遊歩なのだ。遊歩者としてのボット観察するのは、形式的には「人間」なのだが、実際にはボット同士で相互に観察し合う場合も大いに有り得るであろう。尤も、これもまた一つのコミュニケーションから構成された社会システムである。本当の意味での「人間」がいるとするなら、それはこうした社会システム外部環境に位置する。とりわけ、アルゴリズム設計にもアーキテクチャ設計にも携われない「人間」は、こうしたボット社会システムからは締め出されることになる。そうした「人間」に可能なのは、ボット同士のコミュニケーションのログに対する事後的な観察に過ぎない。精々のところ彼ら彼女らにできるのは、「ダッシュボード」のユーザーインターフェイス越しに、ボットコミュニケーションを眺めることだけである。

プロトタイプの開発:「言葉」を蒐集するWebクローラ型人工知能

しかし一方で、アルゴリズム設計アーキテクチャ設計観点かられば、この事例は有力な手掛かりを残した。と言うのも、複数のボットの相互観察というコミュニケーション概念は、相互の<観察の観察>によって学習していくマルチエージェントWebクローラ人工知能に関して、その理念叙述することを可能にするためである。そしてこのマルチエージェントの中には、「人間」を、つまり設計者をも含めた「人間」を組み込むことも不可能ではない。何故ならボットたちにとって、他のボットと「人間」は、模倣対象として観察する<形式としての人格>であるという点では機能的に等価であるためだ。

例えば『Webクローラ型人工知能によるパラドックス探索暴露機能の社会進化論』で紹介したWebクローラ人工知能の「キメラ・ネットワーク」は、社会システム理論の概念である「偶発性定式(Kontingenzformel)」の意味論探索するマルチエージェントとして設計されている。だがその学習アルゴリズム自然言語処理とテキストマイニングを前提としているために、このマルチエージェントは、「言葉」の探索蒐集機能も遂行していることになる。更にその蒐集対象がパラドックス問題設定脱パラドックス化問題解決策の組み合わせであるために、このWebクローラもまた一種の話題準拠型のWebクローラとして位置付けることができる。したがってこのマルチエージェントもまた、「言葉」を蒐集するWebクローラ人工知能を例示するプロトタイプの一つと考えて良い。

キメラ・ネットワークが記述しているブログである『Accel Brain; Media』に関して特筆すべきなのは、2万1体のエージェントがそれぞれ観察対象となった文書を「引用」していることである。この引用は、確かに文書要約アルゴリズムに根差して実行されている。だが一方で、元々の文書の記述者たちかられば、この「引用」は寓意的に機能する。この「引用」という操作により、観察対象は、キメラ・ネットワークの「お喋り」の中に引き摺り込まれることになる。そうすることで、当の観察対象は、マルチエージェントたちのコミュニケーションの中に埋没することになる。そして観察対象の認識など構うことなく、キメラ・ネットワークのマルチエージェントは、観察者と観察対象との間に、一対多の関連を強制的に構成する。

これを前提とすれば、ボットの設計者は、ヴァーチャルリアリティ上に<大衆機能的等価物>を構成することができるということになる。この<マトリックスとしての大衆>の中には、群衆機能的等価物としてのマルチエージェントと、あるいは設計者自身も包含することができる。「人間」は、このヴァーチャルな母胎>の中に没入することで、その知覚メディアの中から「住まいの原像」を抽出することができるようになるのである。

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