量子力学、統計力学、熱力学における天才物理学者たちの神学的な形象について

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問題再設定:ボルツマンの統計力学は如何にして可能になったのか

歴史意味論の観点から観れば、古典力学と前期量子力学区別は、マクロミクロ区別意味処理規則に多大な影響を与えた。科学・学問は、この結果として、ミクロな事象に対する認知的な期待構造化する方法理論プログラムを再記述している。例えば期待の分子運動主題となる場合、これまで何気無く観測されてきたマクロ平衡状態の特性は、ミクロな分子運動の総合的な結果として結実していると再認できる。

これを前提とすれば、統計力学理念は、マクロな観点とミクロな観点の接続可能性に関連する。その根源的な参照問題は、このマクロな観点とミクロな観点の接続により、ミクロな事象を踏まえたマクロな事象の表現が如何にして可能になるのかである。この関連から統計力学では、ボルツマンの定式が再記述されるようになる。

問題解決策:ボルツマン定数

先述した固有状態と一般状態の区別からもわかるように、マクロな事象として観測される系には、膨大な数の量子状態が含まれている。孤立したマクロの系では、十分な時間が経過することを前提とすれば、粒子間の複合的な相互作用により、様々な量子状態を実現する。そして、十分に長い時間においては、それぞれの量子状態に滞在した時間は一定の値に近付いていく。この長時間を前提とすれば、ある量子状態が別のあり方でもあり得る量子状態よりも高い確率で実現し得ると想定することには必然性が無い。また、ある量子状態が別のあり方でもあり得る量子状態よりも長時間実現し続けると考える道理も無い。

この観点から観れば、量子力学が明らかにしたのは、観測対象の状態に関する偶発性である。様相論理学的に言えば、偶発性は偶然性ではない。偶発性とは、可能性と非必然性同時に成立した状態を意味する。つまり偶発的な状態とは、その状態になることが可能ではあるものの、その状態になることが必然ではないということである。だが偶発性を過度に強調すれば、偶発性それ自体が必然的になってしまう。必然的な状態があり得ないということが、全く以って必然的な状態となる。それ故に偶発性とは、常にパラドックス形式で結実している。

そこで統計力学では、このパラドックスを「展開」するために、可能性概念を確率概念で再記述している。統計力学が最初に仮定するのは、「等確率の原理(principle of equal a priori probabilities)」に他ならない。この原理においては、孤立したマクロな系では、十分に長い時間で観測すると、可能な全ての量子状態が等価な確率で実現していると仮定される。これは、文字通りベイズ統計における理由不十分の原則に基づいた事前確率の操作的な定義と類似した方法だ。

この等確率の原理を前提に、二つの系を接触させた場合を想定しよう。接触の前後で、それぞれの系は外部環境から孤立する。また各系の諸要素は同一の粒子とする。この二つの系が接触する時、双方の間では粒子とエネルギーの交換が発生する。十分に長い時間が経過すると、それぞれの系が平衡状態に達する。したがって、エネルギー、体積、粒子数をそれぞれ$$E_i, V_i, N_i (i =1, 2)$$とすると、次のようにそれぞれ一定の値を取ることとなる。

$$E = \sum_{i}^{}E_i = E_1 + E_2 = C_E(一定)$$
$$V = \sum_{i}^{}V_i = V_1 + V_2 = C_V(一定)$$
$$N = \sum_{i}^{}N_i = N_1 + N_2 = C_N(一定)$$

故に、

$$dE_1 = – dE_2$$
$$dV_1 = – dV_2$$
$$dN_1 = – dN_2$$

となる。二つの系は統計的に独立である。そのため全ての系の量子状態の数W(E, V, N)は、二つの系におけるそれぞれの量子状態の数の積となる。

$$W(E, V, N) = W_1(E_1, V_1, N_1)W_2(E_2, V_2, N_2)$$

全微分は、$$dW = W_2dW_1 + W_1dW_2$$

これをW(E, V, N)で割ると、$$d \ln w = d \ln W_1 + d \ln W_2$$

等確率の原理により、それぞれの量子状態は等価な確率で実現する。故に平衡状態は最も確率の高い状態を意味する。それはW最大となる状態である。したがって、$$d \ln W = 0$$で、$$\ln W = \ln W_{max}$$となる。

全系のエントロピーと二つの部分のエントロピーを$$S, S_1, S_2$$と置くなら、各部分の系は外部環境から準静的に熱量を吸収する。この時、吸収される熱量はそれぞれ$$d’q_1, d’q_2$$と表記できるため、各部分の系におけるエントロピーの変化は、$$dS_1 = \frac{d’q_1}{T}$$と$$dS_2 = \frac{d’q_2}{T}$$となる。一方、全体の系のエントロピー変化は、$$dS = \frac{d’q}{T} = \sum_{i}^{}\frac{d’q_i}{T} = \sum_{i}^{}dS_i$$となる。したがって、全体のエントロピー変化は部分のエントロピー変化の和で表せる。

これを前提とすれば、$$S(E, V, N) = S_1(E_1, V_1, N_1) + S_2(E_2, V_2, N_2)$$となる。この全微分を取ると、$$dS = dS_1 + dS_2$$となる。平衡状態ではエントロピーが極大となるため、$$dS = 0$$で、$$S = S_{max}$$となる。

以上のことから、WとSは同一の振る舞いを示している。両者の間には比例関係が成立していると観て間違いはない。この比例関係は次のように表記できる。

$$S(E, V, N) = k_{B} \ln W(E, V, N)$$

ここで、$$k_{B}$$を「ボルツマン定数(Boltzmann constant)」と呼ぶ。この値は気体定数をアボガドロ定数で割った値となる。すなわち、$$k_{B} \equiv 1.38064852 × 10-23 m^2 kg \ s^{-2} K^{-1} (JK^{-1})$$

問題解決策:抽象としての平衡

ボルツマン定数を前提とすれば、量子状態の数Wを求めることによって、様々な状態量が計算可能になる。統計力学は、このボルツマン定数を導入することによって、マクロ平衡状態ミクロな状態から表現することを可能にする。マクロ平衡状態は膨大な諸要素の複合性によって構成されている。

だがそうであるにしても、ミクロな状態の偶発性が消滅する訳ではない。マクロ平衡状態がU、V、Nといった少数のパラメタによって規定されているとしても、この平衡状態表現し得るミクロな状態は別のあり方でもあり得る偶発的な状態である。だとすれば、一見するとマクロ平衡状態は、無数にあり得るミクロな状態の可能性の中から一つの状態が選択されることで成立すると思えてしまう。マクロ平衡状態に対応する一つのミクロ状態が選択されると同時に、別のあり方でもあり得るミクロ状態は全て排除されることによって、マクロ平衡状態が成り立つということである。

しかし、この認識は誤謬に過ぎない。もしマクロ平衡状態ミクロな状態の選択によって成立するのだとすれば、その選択が如何にして可能になるのかがわからなくなる。もしそうした選択を仮定するのならば、その選択は、マクロミクロ区別によって排除された第三項によって実行されていることになる。その排除された第三項として潜在化している存在Xは、ジョーカーであるかもしれないし、悪魔であるかもしれない。だが如何に科学史を遡及しても、この存在Xの働き掛けを証明できた観測者は一人もいない。

ボルツマンの方法は、この誤謬を巧妙に回避している。彼の方法によれば、マクロ平衡状態が成立するのは、ミクロな状態の選択が実行されるためではない。マクロな水準での粒子が平衡状態に達する条件に、「ミクロな状態の選択」は必要無いのである。と言うのも、ミクロな水準におけるほぼ全ての粒子は、マクロの水準から観れば、一定の共通した振る舞いを示しているためだ。つまりマクロ平衡状態とは、ミクロな状態の共通項であるということになる。

厳密に言えば、ボルツマンのこの方法は、「ミクロな状態の選択」を完全に放棄している訳ではない。そうではなく、この方法は「抽象化」の思考技術を採り入れているのである。個別具体的な「ミクロな状態」の中から、その状態の可変性共通性区別しているのだ。そうすることで、ほぼ全てのミクロ状態に共通して観られる性質を抽出している。この意味でボルツマンの方法もまた、選択であることに変わりは無い。認識論的に言えば、こうなる。抽象化によるマクロな観点の導入が、ミクロな状態に対する認識の複合性の縮減を可能にしているのである。

問題解決策:カノニカル・アンサンブル

尤も、膨大な数の粒子を観測するとなると、その中からほぼ全てに共通する性質を抽出するのは容易ではない。ミクロな水準における無数の状態を観測しなければ、その可変性共通性区別することができないためだ。そこで統計力学では、等確率の原理に裏打ちされた多数の「アンサンブル(ensemble)」を導入することになる。アンサンブルとは、マクロな状態としては同一でも、ミクロな状態は互いに異なる多数の系の集合意味する。

あるミクロ状態の集合が等確率で観測される場合に、その集合を「ミクロカノニカル・アンサンブル(Microcanonical ensemble)」という。このアンサンブルの仮定が指し示しているのは、ある特定の観測時点で、観測された系と同一の構造を有した多数の系が、全ての量子状態で等確率に分布するということである。したがって、ミクロカノニカル・アンサンブルは十分に長い時間における長時間平均によって構成されているのではなく、集団平均として構成されている。ある時点に多数の系を想定することで、これらの系のエネルギーがE 〜 E + ⊿Eの範囲にある全ての量子状態に等確率で分布するということである。ここで、⊿Eは外部環境との相互作用による系のエネルギーの「ゆらぎ」を意味する。

ミクロカノニカル・アンサンブルエネルギー一定の孤立系として想定されているのに対して、外部環境との接触によるエネルギー交換を想定したアンサンブルは、特に「カノニカル・アンサンブル(Canonical ensemble)」という。このアンサンブルは、外部環境とのエネルギー交換は発生しているが、物質の出入りが無い閉じた系に適用される。

一般的にカノニカル・アンサンブルを導入するためには、熱力学的な想定が要求される。熱力学第ゼロの法則によれば、系Aと系Bとを合わせた系が熱平衡状態にあると共に、BとCとを合わせた系が熱平衡状態にあるのならば、AとCとを合わせた系も熱平衡状態にある。

ここで、エネルギー交換を発生させる二つの系QとRを想定する。粒子の交換は無い。RはQの外部環境で、Qに比して十分大きい系であると想定する。全系をTとするなら、Tは $$T = Q + R$$ の孤立系となる。その熱平衡状態ミクロカノニカル・アンサンブル構成する。全系のエネルギーは、$$E_T = E_Q + E_R = C(一定)$$となる。熱平衡状態では、二つの系の温度は等しい。その温度Tは元来Rが有していた温度であると想定できる。と言うのもRは、Qに比べて遥かに大きいためである。言い換えれば、エントロピーをSとするなら、二つの系の接触の前後において、$$\frac{1}{T} = (\frac{\partial S_R}{\partial E_R})_{V_R, N_R}$$は変わらないためである。

系Qのエネルギーの揺らぎをΔEとして、E ~ E + ΔEの状態数をW(E)とするなら、$$\Delta E_T = \Delta E_Q + \Delta E_R$$が成立している。全系は孤立系であるために、ミクロカノニカル・アンサンブルにおける等確率の原理を導入することが可能である。SがエネルギーEを有する確率をP(E)とするなら、Sが E ~ E + ΔE のいずれかの量子状態にある確率は、次のようになる。

$$P(E)W(E) = \frac{W(E)W_R(E_R)}{W_T(E_T)}$$

$$P(E) = \frac{W_R(E_R)}{W_T(E_T)}$$

ボルツマンの方法により、Rのエントロピーは、$$S_R(E_R) = k_B \ln W_R(E_R)$$となるため、$$W_R(E_R) = \exp \{\frac{S_R(E_R)}{k_B}\}$$となる。同様に計算すると、$$W_T(E_T) = \exp \{\frac{S_T(E_T)}{K_B}\}$$となる。だが$$S_T(E_T) \cong S_R(E_T)$$と見做すことができるため、$$W_T(E_T) \cong \exp \{\frac{S_R(E_R + E_Q)}{K_B}\}$$と再記述できる。故に、$$P(E) \propto \frac{\exp \{\frac{S_R(E_R)}{K_B}\}}{\exp \{\frac{S_R(E_R + E_Q)}{K_B}\}}$$

系の定義上、$$E_Q \ll E_R$$である。そのため、$$S_R(E_R + E_Q) \cong S_R(E_R) + (\frac{\partial S_R}{\partial E_R})E_Q = S_R(E_R) + \frac{E_Q}{T}$$

したがって、$$P(E) \propto e^{-\frac{E_Q}{k_BT}}$$

エネルギー$$E_i$$において、特定の量子状態iにある確率を$$P(E_i)$$とすると、確率の定義から、$$\sum_{i}^{}P(E_i) = 1$$となる。したがって、

$$P(E_i) = \frac{e^{-\frac{E_i}{K_BT}}}{\sum_{i}^{}e^{-\frac{E_i}{k_BT}}} = \frac{e^{-\frac{E_i}{k_BT}}}{Z}$$

ここで、規格化の定数として機能しているZは次のような「分配関数(partition function)」や「状態和(sum over states)」を意味する。

$$Z = \sum_{i}^{}e^{-E\frac{E_i}{k_BT}}$$

分配関数

現代の統計力学の観点から観れば、規格化定数として機能するZは、一般に分配関数として知られている。だがこのZは、上述したカノニカル・アンサンブル熱力学的な想定に準拠した上で導入されていることを踏まえれば、重要な意味を有している。例えば、統計的機械学習問題の枠組みにおいても頻出する「ヘルムホルツの自由エネルギー」は、熱力学的な状態量の全てを導入することを可能にする熱力学関数である。一般化して言えば、分配関数機能は、熱力学的な状態量を統計力学的に表現することなのである。

以下では、カノニカル・アンサンブルにおける熱力学的な状態量を例示していく。カノニカル・アンサンブルでは、観測する系QのエネルギーEは一定ではない。Qが接触している外部環境としての系Rのエネルギー無限に大きいため、如何なる量子状態も実現可能となっている。そこで、全体でM個の同一の構造を有した系を想定することで、その中のi番目におけるエネルギー固有状態にあるものの数を$$M_i$$個と表現する。このような配置の数Wは、M個のものを$$M_i$$個ずつに分配する方法の数に等しい。したがって、

$$W = \frac{M!}{M_1!M_2! … M_i! …}$$

カノニカル・アンサンブルではこのWを極大にする分布が実現される。ただしこの場合も、$$M = \sum_{i}^{}M_i$$となる。i番目の量子状態が実現する確率を$$P_i$$とすると、$$P_i = \frac{M_i}{M}$$なので、$$E = \bar{E} = \sum_{i}^{}P_iE_i$$

$$M\bar{E} = \sum_{i}^{}M_iE_i$$

束縛条件

以上を踏まえれば、Mはラグランジュの未定乗数法における束縛条件として機能させることができる。

スターリング近似から、$$\ln W = M(\ln M – 1) -\sum_{i}^{}M_i(\ln M_i – 1) = M \ln M – \sum_{i}^{}M_i \ln M_i$$

ラグランジュの未定乗数法より、Wの極値を与える$$M_i$$を求める問題は、以下の極値を$$M_i$$が独立に変化するものとして解く問題へと「展開」される。

$$F = \ln W – \alpha (\sum_{i}^{}M_i – M) – \beta (\sum_{i}^{}M_iE_i – M\bar{E})$$

よって、$$\frac{\partial F}{\partial M_i} = 0 (i = 1, 2, …)$$から、$$-\ln M_i -1 -\alpha -\beta E_i = 0$$

故に、$$\hat{M}_i = e^{-(1 + \alpha) – \beta E_i} (i = 1, 2, …)$$

束縛条件より、$$\sum_{i}^{}\hat{M}_i = M$$

よって、$$e^{-(1 + \alpha)}\sum_{i}^{}e^{-\beta E_i} = M$$

$$\hat{M}_i = \frac{Me^{-\beta E_i}}{\sum_{i}^{}e^{-\beta E_i}}$$

$$\frac{\hat{M}_i}{M} = P_i = P(E_i)$$と置くなら、$$P(E_i) = \frac{e^{-\beta E_i}}{\sum_{i}^{}e^{-\beta E_i}}$$

この時、$$\beta = \frac{1}{k_BT}$$ならば、$$P(E_i) = \frac{e^{-\frac{E_i}{K_BT}}}{\sum_{i}^{}e^{-\frac{E_i}{k_BT}}} = \frac{e^{-\frac{E_i}{k_BT}}}{Z} = \frac{e^{-\beta E_i}}{\sum_{i}^{}e^{-\beta E_i}}$$を満たす。

未定係数

$$\beta = \frac{1}{k_BT}$$は次のような操作だけで導入することができる。

熱平衡状態にあるQとRを分離した場合、その後もQは熱平衡状態にある。孤立系であるため、Qのエネルギー、体積、粒子の数をそれぞれE、V、Nとするなら、ボルツマンの方法により、エントロピー

$$S(E, V, N) = k_B \ln W(E, V, N)$$

となる。W(E, V, N)は系のエネルギーがE ~ E + ΔEにある量子状態の数に対応する。上記より、

$$W(E, V, N) = \exp \{\frac{S(E, V, N)}{K_B}\}$$

が、まず得られる。

ここで状態密度をD(E)とすると、$$W = D(E)\Delta E$$となる。系のエネルギー固有値が$$E_i$$となる確率

$$P(E_i) = \frac{e^{-\beta E_i}}{\sum_{i}^{}e^{-\beta E_i}}$$

であることから、系のエネルギーがE ~ E + ΔEにある確率は、

$$P(E)D(E)\Delta E = \frac{e^{-\beta E}}{\sum_{i}^{}e^{-\beta E_i}}W(E, V, N)$$

$$ = \frac{1}{\sum_{i}^{}e^{-\beta E_i}}\exp [- \{\beta E – \frac{S(E, V, N)}{k_B}\}]$$

この時のEを前提とするなら、平衡状態では、P(E)D(E)は極大となる。逆に言えば、上式の$$\{\beta E – \frac{S(E, V, N)}{k_B}\}$$の部分が極小になるということである。したがって、これをEで偏微分すると、$$\beta – \frac{1}{k_B}(\frac{\partial S}{\partial E})_{V, N} = 0$$と置くことができる。

$$(\frac{\partial S}{\partial E})_{V, N} = \frac{1}{T}$$であるため、$$\beta = \frac{1}{k_BT}$$が得られる。

したがって、

$$P(E_i) = \frac{e^{-\beta E_i}}{\sum_{i}^{}e^{-\beta E_i}} = \frac{e^{-\frac{E_i}{K_BT}}}{\sum_{i}^{}e^{-\frac{E_i}{k_BT}}} = \frac{e^{-\frac{E_i}{k_BT}}}{Z}$$

$$Z = \sum_{i}^{}e^{-E\frac{E_i}{k_BT}}$$

ヘルムホルツの自由エネルギー

Eが極大となることを踏まえれば、

$$P(E)D(E) \Delta E = P(\bar{E})D(\bar{E})\Delta E = \frac{1}{\sum_{i}^{}e^{-\beta E_i}}\exp [- \{\beta E – \frac{S(E, V, N)}{k_B}\}]$$

$$ = \frac{1}{\sum_{i}^{}e^{-\frac{1}{k_BT}E_i}} \exp [-\{ \frac{\bar{E}}{k_BT} – \frac{S}{k_B}\}]$$

したがって、

$$ – \{ \frac{\bar{E}}{k_BT} – \frac{S}{k_B} \} = \ln (Z P(\bar{E})D(\bar{E}) \Delta E)$$

$$\bar{E} – TS = -k_BT [ \ln Z + \ln (P(\bar{E}) D(\bar{E}) \Delta E)]$$

ここで、$$\ln Z$$に比べれば、$$\ln (P(\bar{E}) D(\bar{E}) \Delta E)$$は無視することができる。したがって、ヘルムホルツの自由エネルギーは、$$A = \bar{E} – TS$$

$$A(T, V, N) = – k_BT \ln Z (T, V, N)$$

熱力学的な状態量

観測する系の内部エネルギーUは熱平衡状態エネルギーEであり、その値は一定の平均値$$\bar{E}$$に等しくなる。すなわち、

$$E = \bar{E} = \sum_{i}^{}E_iP(E_i) = \frac{1}{Z}\sum_{i}^{}E_ie^{\frac{1}{k_BT}E_i}$$

$$E = -\frac{1}{Z}\frac{d}{d(\frac{1}{k_BT})}\sum_{i}^{}e^{-\frac{1}{k_BT}E_i} = -\frac{1}{Z}\frac{dZ}{d(\frac{1}{k_BT})}$$

$$E = -\frac{d}{d(\frac{1}{k_BT})} \ln Z$$

$$E = k_BT^2(\frac{\partial \ln Z}{\partial T})_{V, N}$$

これ以外にも、上述したヘルムホルツの自由エネルギーとの関連から、様々な状態量を分配関数との関連から再記述することができる。

$$A = -k_BT \ln Z$$

$$S = -(\frac{\partial A}{\partial T})_{V, N} = k_B \ln Z + k_B T(\frac{\partial \ln Z}{\partial T})_{V, N}$$

$$P = -(\frac{\partial A}{\partial V})_{V, N} = k_BT(\frac{\partial \ln Z}{\partial V})_{T, N}$$

派生問題:アンサンブル概念の歴史的意味論

概念史を度外視した通俗的な解釈によれば、アンサンブル概念を定式化したのは、ジョサイア・ウィラード・ギブスであるとされている。確かに一面においては、ギブスがボルツマンの方法に準拠した上で、現代の統計力学主題とされるアンサンブル概念を定式化したという認識は妥当する。

しかし現代の統計力学で記述されているアンサンブル概念と当時のギブスが記述していたアンサンブル概念との間には、無視できないほどの差異がある。まずギブスは、アンサンブル概念に関する自身の研究がボルツマンとマクスウェルに準拠していることを主張している。だがボルツマンとマクスウェルの認識は、必ずしも「アンサンブル(ensemble)」という用語で記述されている訳ではない。これに対してギブスは、アンサンブル概念を熱力学統計力学に関連する概念として明確化して再記述した。

この概念史において注視すべきなのは、熱力学統計力学差異に対するギブスの姿勢である。アンサンブル概念に関するギブスの記述においては、この差異が強調されている。現代の統計力学におけるアンサンブル概念が熱力学との関連からも記述されるのに対して、ギブス流のアンサンブル概念は、熱力学が所与の前提としては受容されていないのである。

ギブス流の統計力学と現代の通俗的な統計力学との差異は、熱力学に対する態度の差異として表われている。それ故にこそギブスの統計力学には、熱力学的な状態量を計算可能にするための分配関数が事実上導入されていないのである。ギブスが統計力学熱力学的な導入に注力しなかったのは、彼の時代の科学・学問の社会的な背景も関連している。ギブスの時代の科学・学問システムにおいて、熱力学、放射線、原子結合に伴う電気的現象を包含した分子作用の動的理論構成することは、ほぼ不可能であると考えられていた。だがギブスによれば、これらの現象を網羅的に考慮できていない理論は、明らかに不十分であるという。

「この種類の困難な問題によって、筆者は、自然の謎を説明する試みを断念することになり、力学の統計的な分野に関する幾つかのより明確な命題を演繹するというより控えめな目標に満足しなくてはならなくなる。」
Gibbs, Josiah Willard. (1902). Elementary Principles of Statistical Mechanics, New York: Charles Scribner’s Sons, London: Edward Arnold, p.vi.

1902年という、物理学会が量子的世界観の矛盾に相対していた時代背景を加味すれば、ギブスのこの発言は、ある意味で保守的な立場の表明となっている。確かにその後の量子力学の発展によって、ギブスが断念した問題の一部は解決されてはいる。だがここで重要となるのは、彼の統計力学が、古典力学と前期量子力学矛盾したコミュニケーションの中でも、埋没することなく観察され続けたということである。

ギブスの統計力学は、物質の構成に関する物理学的な仮説を全て放棄するところから始まっている。ギブスにとって統計力学とは、熱力学をア・プリオリな基礎の上に導入するための方法なのである。彼が出発点としたのはあくまで力学であった。だが前期量子力学の発展によって、古典力学的な命題が次々と不十分であることが判明されていく中でも、ギブスの統計力学は尚も有用な方法理論を提供しているプログラムとして観察されてきたのである。それは、彼の統計力学が、古典力学と前期量子力学差異には回収されないほどの抽象性を初めから有していたことを言い表している。

この意味でギブスの姿勢は、ボルツマンの方法からも明確に区別される。ボルツマンの分子運動論は、分子の集団の統計的な変化を遡及している。だがそうした変化を遡及しようとすれば、物質が分子から構成されることを示す何らかの仮説に依存せざるを得なくなる。ギブスはこの依存関係を撤廃している。ギブスの数式に分配関数が登場しないのも、端から熱力学的な状態量を計算することの必要性が、現代の統計力学によって期待される程度には高くなかったためである。

したがって我々は、単に「ギブス流の統計力学」を「統計力学の先駆的な観察」として観察するのではなく、現代の熱力学的な関連を自明視した統計力学からは区別される、通俗的な統計力学の機能的等価物として分析する必要がある。それは、現代の通俗的な統計力学必然性否定することを意味する。現代普及している統計力学に準拠することは偶発的な選択肢の一つに過ぎず、別のあり方でもあり得る選択肢として、我々はギブスをもう一度観察することになる。

問題解決策:アンサンブルの位相-内-密度

熱力学的な記述形式にせよ、統計力学的な記述形式にせよ、「アンサンブル」という同一の性質を有した膨大な数の系を想定することを可能にするという点では、機能的に等価である。そうした系は、各「位相(phase)」においては異なる「構成(configurations)」と「速度(velocities)」を有している。そのアンサンブルの諸要素は、単に無限という訳ではない。ここで述べている系は、それぞれの構成速度の想定可能な組み合わせを包含するかのような系である。そしてここで、ギブスはそれまでの統計力学文化的に貯蓄してきた主題と同様の問題を設定することになる。その問題とは、一連の構成を通じて特定の系を追従することによって設定される問題ではない。その問題設定とは、無数の系の全体が、十分な時間の中で多種多様かつ想定可能な構成速度の中で分布するということが、如何にして可能になるのかという問題設定となる。

ギブスがこの関連から論じている「位相」とは、2n個の変数$$q_1, q_2, …, q_n, p_1, p_2, …, p_n$$のそれぞれに一つずつ次元が割り当てられた抽象的な空間意味する。この場合、自由度nにおける系の状態は、2n次元の位相空間におけるデータポイントとして表現される。そしてアンサンブルとは、このデータポイントの集合であるということになる。この位相空間を前提とした場合、「構成」とは、一般的な座標の集合$$q_1, q_2, …, q_n$$を指し示す。一方で「速度」は、これに対応して、$$\dot{q}_1, \dot{q}_2, …, \dot{q}_n$$となる。ドットで表記しているのは無論、時間微分を用いたハミルトンの運動方程式に準拠しているためである。すなわち、

$$\dot{q}_1 = \frac{d\epsilon}{dp_1}$$

$$\dot{p}_1 = -\frac{d\epsilon}{dq_1}$$

ギブスにとってのアンサンブルとは、この位相空間上での確率分布を意味していた。彼は、この確率分布としてのアンサンブルを、位相空間上の特定領域においてどの程度の数の系が配置されているのかを表現する形式として用いていたのである。つまりギブスは、
$$
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
p’ < p_1 < p''_1, \ \ \ q'_1 < q_1 < q''_1, \ \\ p' < p_2 < p''_2, \ \ \ q'_2 < q_2 < q''_2, \ \\ ... \\ p' < p_n < p''_n, \ \ \ q'_n < q_n < q''_n, \ \\ \end{array} \right. \end{eqnarray} $$ を満たす系の個数を数えているのである。そのために彼はアンサンブルの分布を規定する機能を「位相-内-密度(density-in-phase)」を意味するDと置き、この個数表現を次のように再記述している。

$$D(p”_1 – p’_1)…(p”_n – p’_n)(q”_1 – q’_1)…(q”_n – q’_n)$$

より簡潔に書き換えるなら、$$D dp_1 … dp_n dq_1 … dq_n$$となる。この領域の幅を狭めれば、自然と密度も高まる。ギブスはこの幅を無限小にまで狭めることによって、その位相空間上にどの程度の個数の系が集まっているのかを表現できるという。

この位相-内-密度としてのDは、pやq、そして時間tの関数である。だがそれが時間tと共に変化する訳ではない場合には、そのアンサンブルは「統計的平衡(statistical equilibrium)」の状態にあるという。ギブスにおけるアンサンブル概念は、基本的にこの統計的平衡状態にある系の集合を言い表している。彼が論じるカノニカル・アンサンブルもこの条件を満たしている。

このユースケースは、現代の統計力学におけるそれとは著しく異なっている。現代の統計力学アンサンブルを単一の系のエネルギー分布を指し示す形式として利用しているのに対して、ギブスは位相空間上に位置する複数の系の分布を指し示す形式として利用しているのである。

問題解決策:統計的平衡

ギブスの観察観察するなら、特定の領域を導入する場合、彼はまず領域の<内部>と<外部>の区別を導入している。その上で、<外部から内部へと通過してくる系>と<外部から内部へと通過していく系>との区別も導入している。pとqを包摂している位相空間の領域を二次元直交座標上の特徴平面であると類推するなら、領域の範囲は次の二つの差異によって特徴付けられる。

$$p”_n – p’_n, \ q”_n – q’_n$$

したがって位相-内-密度Dの領域における自由度nの系の振る舞いの場合の数は、pにおける内外横断の場合の数とqにおける内外横断の場合の数の和となるため、4n通りと表現できる。領域内の密度Dは、内部の系の分布によって変化する。故に密度Dの変化は、この4n通りの可能性から構成されることになる。

しかしこの内外横断に要する時間は、Dが無限小まで近付くという前提に立つなら、極めて短い時間となる。したがって、個々のpを観察して観ても、Dの領域内部へと横断しているpの個数も、あるいはDの領域の外部へと横断しているpの個数も、微小であることが想定される。そこでギブスは、時間dtにおける$$p_1$$の増減値を$$\dot{p}_1dt$$、$$q_1$$の増減値を$$\dot{q}_1dt$$と求めて、これらがそれぞれ$$\dot{p}_1dt \ll p”_1 – p’_1$$と$$\dot{q}_1dt \ll q”_1 – q’_1$$を満たす時間dtを想定している。この極微の時間の中で$$p’_1$$の境界横断を成し得るのは、$$p’_1 \pm \dot{p}_1dt$$の中に位置する系のみに限定される。

勿論、この$$p_1$$だけが密度Dを変化させ得る訳ではない。qの側でも同様の条件から密度Dの変化を引き起こす境界横断が可能になるはずだ。しかしギブスは、少なからず$$p_1$$を観測している時点では、その他の要素によってDが変化する可能性は無視して構わないと述べている。と言うのも、同じ時点で、同時に、それぞれの境界横断が成立する結合確率は極めて低いと考えられるからだ。

これを前提とすれば、ある極微な時間における密度Dの変化は、原理的に一つの系の境界横断によって成立すると仮定して良い。p’の境界横断による密度分布を$$D dp_1 … dp_n dq_1 … dq_n$$とする時、$$dp_1 \rightarrow \dot{p}_1dt$$とするなら、$$D\dot{p}_1dtdp2, …, dpndq_1, …, dq_n$$となる。p”についても同様の操作が可能で、ほぼ同様の値が得られる。だが境界横断が生じている以上、たとえ微細でも、p”の場合とp”の場合とでは、双方に差分が生じていると考えざるを得ない。そこでこの双方の差分を$$p”_1 – p’_1$$が極めて小さいという前提の下で計算するなら、

$$d(D\dot{p}_1)dp_2, …, dp_ndq_1, …, dq_ndt$$

ここから、

$$\frac{d(D\dot{p}_1)}{dp_1}dp_1, …, dp_ndq_1, …, dq_ndt$$

この、差異が視えない程に微細な差分をギブスは系の境界横断による境界内の系の減少数を言い表すという。qについてもやはり同様の操作を行なうと、以下の差分が得られる。

$$\frac{d(D\dot{q}_1)}{dq_1}dp_1, …, dp_ndq_1, …, dq_ndt$$

pの場合の差分とqの場合の差分の和は、次のようになる。

$$(\frac{d(D\dot{p}_1)}{dp_1} + \frac{d(D\dot{q}_1)}{dq_1})dp_1, …, dp_ndq_1, …, dq_ndt$$

ハミルトンの運動方程式より、

$$\dot{q}_1 = \frac{d\epsilon}{dp_1}$$

$$\dot{p}_1 = -\frac{d\epsilon}{dq_1}$$

$$\frac{d\dot{p}_1}{dp_1} + \frac{d\dot{q}_1}{dq_1} = 0$$

したがって、$$(\frac{dD}{dp_1}\dot{p}_1 + \frac{dD}{dq_1}\dot{q}_1)dp_1, …, dp_ndq_1, …, dq_ndt$$

1番目からn番目までの全ての系について総和を取れば、極微な時間dtにおける系の減少数の総和が得られる。

$$\sum_{}^{}(\frac{dD}{dp_1}\dot{p}_1 + \frac{dD}{dq_1}\dot{q}_1)dp_1, …, dp_ndq_1, …, dq_ndt$$

$$ = -dDdp_1, …, dp_ndq_1, …, dq_n$$

$$(\frac{dD}{dt})_{p,q} = – \sum_{}^{}(\frac{dD}{dp_1}\dot{p}_1 + \frac{dD}{dq_1}\dot{q}_1)$$

統計的平衡は、密度Dが極微な時間では変化しないことを意味する。したがって、統計的平衡の条件は次のようになる。

$$\sum_{}^{}(\frac{dD}{dp_1}\dot{p}_1 + \frac{dD}{dq_1}\dot{q}_1) = 0$$

ギブス的類推

以上の条件付けによって、統計的平衡には、熱力学の概念が関与してないことがわかる。ハミルトンの運動方程式との関連からもわかるように、この条件付けは熱力学的ではなく力学的なのである。そしてこの条件付けは――少なからず現代の統計力学期待される通りには――熱力学的な状態量を得るために応用されている訳ではない。その証拠に、ギブスのアンサンブル概念は、分配関数との接続可能性を有していないのである。

ギブスが自身の統計力学熱力学との間に接点を持たせる場合、その思考手続きは「類推(analogy)」から始まるのであって、その関連付けは形式的な計算から導入される訳ではない。確かにギブスも述べているように、自由度の大きな系に関する統計力学的な命題は、熱力学の法則との顕著な同一性を指し示している。だが、こうした同一性が得られたとしても、統計力学的な命題が熱力学の法則に関連した自然現象の説明に貢献できる訳ではない。何故なら、統計力学主題となるのは、有限自由度であるとはいえ、あまりにも単純過ぎる系であるためだ。こうした単純な概念では、放射線、原子結合に伴う電気的現象を扱うことが儘ならない。

ギブスが統計力学熱力学の関連を類推として記述しているのは、双方の類似性に注意を向けたいからではなく、双方の差異を強調するためである。彼の区別の導入に際した観点は、双方を徒に結び付けることよりも、適材適所で使い分けることに向けられている。自然現象ならば、わざわざ統計力学を利用せずとも、熱力学の法則で足りるであろう。だがギブスによれば、熱力学の法則は、経験的に定められた法則である。それは大きな自由度の系に対する近似的で尤もらしい振る舞いを説明する概念でしかない。熱力学的な諸概念は、顕微鏡では膨大な数の粒子の一つ一つを精密に遡及し切れない人間に対して与えられた色眼鏡のようなものだ。これに対して統計力学は、任意の有限自由度の系に対して適用可能であって、この適用範囲に限って言えば、精確でもある。

尤も、このように統計力学熱力学区別を導入しているギブスにとっても、有限自由度を有した系の統計的な性質を極限まで突き詰めれば、それが熱力学の法則と照応するという事実は、興味深い対象であり続けた。統計力学的な命題が類推を介して熱力学と接点を持つというのは、統計力学の後史における方法理論の更新においても、重要な意味処理規則になり得ている。

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